大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 平成3年(行ツ)34号 判決

上告人 オリエンタルモーター株式会社

右代表者代表取締役 若林昭八郎

右訴訟代理人弁護士 中町誠

被上告人 中央労働委員会

右代表者会長 萩澤清彦

右訴訟代理人弁護士 渡部吉隆

右指定代理人 福田平 外三名

右補助参加人 全日本金属情報機器労働組合東京地方本部オリエンタルモーター支部

右代表者執行委員長 大池良三

右訴訟代理人弁護士 藤野善夫 鍛治利秀 宮坂浩 志村新 宮里邦雄 土田庄一 井上聡 塚原英治 中野直樹 赤沼康弘 藤田温久 森卓爾 小口千惠子 山田秦 飯田伸一 山崎健一 安田純治 後藤裕造 徳住堅治 鴨田哲郎 小林譲二 海渡雄一 山本高行 五十嵐裕美 鷲野忠雄 杉井静子 吉田健一 三嶋健 影山秀人 中村宏 高橋宏 小島周一 佐々木新 一 鵜川隆明 高橋勲 大熊政一 山内一浩 金井克仁 山口廣 安江祐 瀧康暢 山下正祐 二上護 中村秀示 岩村智文 菅野善夫 栗山博史 伊藤幹郎 三木恵美子 谷萩陽一 荒木貢 中丸素明 野澤裕昭 上条貞夫 水口洋介 高山俊吉 鈴木剛 清見栄 志田なや子 林勝彦 岡村共栄 山内忠吉 根岸義道 岩橋宣隆 岡田尚 芳野直子 佐藤大志 安藤裕規 齋藤正俊 毛利正道 金子修 斎藤洋 平松清志 鷲見和人 野村裕 久米弘子 大脇美保 鈴木康隆 高橋敬 深草徹 藤原精吾 林伸豪 中村覚 東島浩幸 田中隆 三浦久 水谷英夫 松村文夫 近藤明彦 後藤潤一郎 西尾弘美 仲松正人 小川恭子 中島晃 出田健一 岩田研二郎 田中秀雄 小貫精一郎 山内康雄 川真田正憲 永尾廣久 小林幸也 吉村清人 吉野高幸 松井恵 中村洋二郎 土屋俊幸 西野泰夫 竹内浩史 吉川嘉和 玉木昌美 中村和雄 財前昌和 渡辺和恵 松山秀樹 前哲夫 山崎博行 高村文敏 中野和信 鎌田正紹 廣田繁雄 荒牧啓一 菊地一二 中村周而 石田吉夫 水野幹男 安藤友人 吉原稔 元永佐緒里 吉田容子 早川光俊 小林保夫 佐伯雄三 増田正幸 高野孝治 吉川五男 河西龍太郎 土山譲 小林和恵 河辺真史 前田憲徳 仁比聡平 蓼沼一郎 縄田浩孝 中村博則 秋月慎一

主文

原判決のうち、主文B項一を破棄し、右部分につき、被上告人の控訴を棄却する。

上告人のその余の上告を棄却する。

訴訟の総費用はこれを三分し、その一を上告人の、その余を被上告人の負担とし、参加によって生じた訴訟の総費用はこれを三分し、その一を上告人の、その余を被上告補助参加人の負担とする。

理由

第一上告代理人中町誠の上告理由第三点について

一  原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  上告人は、精密小型モーターの製造、販売を業とする株式会社であり、本社のほか、柏市に豊四季事業所を、土浦市、高松市、鶴岡市に各事業所を有していた。被上告補助参加人(以下「組合」という。)は、上告人及びその子会社の従業員らにより昭和四九年一二月二二日に結成された労働組合である。

2  組合は、昭和五〇年五月一二日公然化大会を開き、翌一三日上告人に対して組合結成を通知するとともに、要求書を提出した。上告人と組合とは同月一五日以降要求事項について団体交渉を重ねていたが、夏期一時金等に関する要求に対する上告人の回答を不満とした組合が、同年七月三日に統一時限ストライキを実施し、上告人と組合との間に対立が生じた。

3  上告人は、昭和五〇年五月ころ、組合との団体交渉の結果、豊四季、土浦の各事業所に組合事務所を設置することを基本的に了解した。豊四季事業所について、同年六月の団体交渉では、従業員食堂(以下「食堂」という。)に組合事務所を設置することは上告人が拒絶したものの、設置場所について双方が案を提出し、その検討を進める一方、既存事務棟の一部を暫定的に組合事務所として使用することを合意し、その後上告人において必要な工事を実施した。ところが、同年七月上旬、組合が右暫定的使用に関する協定書にまだ合意に至っていない最終的な組合事務所設置場所等を内容とする覚書を添付して上告人に交付したことなどから、上告人は右協定の締結に応じられないとし、その後、組合事務所の貸与について合意ができず、協定が締結されないままとなっていた。

4  上告人は、組合結成通知を受けて以来、会場使用許可願の提出があれば、業務に支障がない限り組合に食堂の使用を許可していた。昭和五一年二月二三日午後六時三〇分ころ、組合が上告人の許可を得て食堂の一角で春闘の学習会を行っていたところ、守衛の木村が近づき、守衛業務として右学習会に参加していた者の氏名を記録した。これを見た組合執行委員長らは、木村守衛に抗議して右記録用紙の交付を迫り、木村守衛からこれを提出させた(以下、この事件を「木村守衛事件」という。)。その際、組合執行委員長らが暴言、脅迫を用いて記録用紙を取り上げたとまでは認められないが、木村守衛は少なくとも自発的に記録用紙を交付したものではない。また、上告人が、企業施設の保安管理の必要から、就業時間後の食堂使用について守衛に巡回させ、居残った者の人数及び氏名を確認させたことを特別不当とすべき事情は認められない。

組合は、翌二四日、木村守衛の行動は組合活動に対する内政干渉であると抗議したところ、上告人は、同月二七日、組合に対し、就業時間終了後社内を巡回して残っている者の氏名及び人数を確認することは守衛の重要業務であり、木村守衛事件は極めて重大な業務妨害行為であるとして、記録用紙の返還を求めるとともに、組合がこのような守衛業務を組合に対する内政干渉であるとする主張を今後も維持するのであれば、上告人は組合に対し会社施設の使用を一切認めないとの警告及び通告を行い、同日の組合からの食堂の使用許可願を却下した。

ところが、組合は、会場使用許可願用紙を会場使用届と書き直して提出しただけで上告人の許可なく食堂を使用し、その後も、上告人が同年七月に食堂の出入口に扉をつけて施錠するまで、食堂の使用に際して会場使用届を提出するのみで上告人の許可を得なかった。上告人は、これに対し、組合の食堂使用は無許可使用であるとして、食堂から組合員の退去を求め、電灯を消すなどして対抗した。

組合は、同年三月九日、上告人に対し、食堂の使用等につき団体交渉を申し入れた。これに対し、上告人は、同月一一日に、食堂使用については、前記警告のとおり、木村守衛から取り上げた記録用紙の返還と陳謝があれば、事前の申入れにより組合に使用を許可することがあると文書で回答をしたが、団体交渉には応じなかった。

5 上告人は、同月一八日、組合に対し、(1)  所定の会場使用許可願を使用目的、使用人数、使用時間を明確にして遅くとも前日までに提出すること、(2)  上部団体の役員以外の外部者の入場は総務部長の許可を得ること、(3)  組合員以外の入場を拒むような排他的な使用をしないこと等を組合が今後誠実に守る旨の意思表示があれば、支障のない限り組合大会開催のため食堂の使用を許可する旨を文書で申し入れた。組合は、右申入れに対し、同月二九日、(1)  上告人は正当な理由がない限り組合による食堂の使用を拒まないこととし、組合が食堂を使用する場合には従来どおり上告人の会場使用許可願用紙を用い事前に届け出ること、(2)  外部者の入場は従来どおり制限すべきではないこと、(3)  組合は食堂使用に当たり、上告人が意図的に組合介入を行わない限り、従来どおり非組合員の入場を拒むような排他的使用はしないこと等を上告人に申し入れた。これに対し、上告人は、同年四月五日、組合の右申入れは上告人の施設管理権を全く無視した要求であるから容認することができず、組合が右見解を今後とも維持するのであれば、食堂使用は許可できない旨を文書で回答した。

6  千葉県地方労働委員会(以下「千葉地労委」という。)は、同年四月一三日、上告人に対し、組合が組合会議、職場大会、分会大会等のため会場使用許可願を提出して食堂の使用を申し入れたときは、上告人が使用する場合を除き、その使用を拒否しないよう、また、組合事務所問題が解決するまで組合備品を食堂に保管して使用することを認めるよう勧告したが、上告人は、同年五月一二日付け千葉地労委あて上申書で、右勧告は食堂使用について許可制を認めているものの、ほとんど無制限に近いものとしているとして、これを拒否した。

7  上告人と組合は、千葉地労委の勧告に基づき、昭和五二年七月五日から同月二七日までの間六回にわたり団体交渉を行い、食堂使用の問題を組合事務所貸与の問題とともに話し合った。組合は、組合事務所について、上告人が設置する事務所の面積については上告人の提案を受け入れてもよいが、その場合には、組合事務所問題が解決するまで、食堂使用については前記6記載の千葉地労委の勧告どおり実施してほしいと主張した。これに対し、上告人は、組合事務所貸与協定書に調印する前に組合主張のとおり食堂の使用を認めることは食堂が実質的に組合事務所化するおそれがあるため認められず、組合事務所貸与の問題が先決であること、組合が前記5記載の昭和五一年三月一八日付け文書記載の条件を受諾すれば食堂を使用させる意思のあることを主張し、結局、双方とも主張を譲らず、団体交渉は打ち切られた。

8  千葉地労委は、組合の申立てに係る千労委昭和五〇年(不)第三号不当労働行為救済申立事件につき昭和五三年一月一三日付けで発した救済命令(以下「初審命令」という。)において、右食堂使用をめぐる紛争に関し、上告人が組合の食堂使用を排除しているのは不当労働行為に当たるとした。初審命令に対しては上告人から再審査申立てがされたが、被上告人は、右再審査申立てに係る中労委昭和五三年(不)再第四号事件につき昭和六二年五月二〇日付けでした命令(以下「本件命令」という。)において、右部分に関しては、初審命令と同様不当労働行為に当たると判断し、その救済として、「上告人は、組合が支部大会及び分会大会開催のため、会場使用許可願を提出して、豊四季事業所の食堂の使用を申し入れたときは、上告人が自ら使用する等特段の事情のある場合を除き、その使用を拒否してはならない。組合の支部大会及び分会大会以外の会議又は集会のためにする同食堂の使用許可の範囲について、改めて組合から団体交渉の申入れのあったときは、上告人は、誠意をもってそれに応じなければならない。」と命令した。(以下、右部分に関する再審査申立てを棄却した点を含め、「本件命令一」という。)。

二  原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断し、第一審判決中本件命令一を取り消した部分を取り消して、本件命令一の取消しを求める上告人の請求を棄却した。

1  上告人が、木村守衛事件を契機に、その直後組合の食堂使用について従前の取扱いを変更したことには、合理的な理由がないとはいえないのであって、これをもって施設管理権の濫用とまでいうことはできない。

2  しかし、組合は、会社の物的施設内をその組合活動の主要な場所とせざるを得ないのであるから、組合事務所が貸与されていない現状において、前示の程度の事実があったからといって、食堂の使用を、一時的にはともかく、一切拒否し続けるならば、組合の組合活動を著しく困難にすることが明らかであり、昭和五一年四月五日の食堂使用不許可の回答以後の会社の対応は、組合運営に対する支配介入に当たるものというべきである。組合が上告人の許可を得ることなく食堂を使用することを続けたことは、上告人の施設管理権に対する侵害というべきであるが、右のような組合の行為があったからといって、上告人の食堂使用拒否が正当とされることにはならず、組合の食堂の使用を一切不許可としたことは、施設管理権の濫用に当たり、不当労働行為に当たるというべきである。

三  しかし、原審の右二の2の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

当該企業に雇用される労働者のみをもって組織される労働組合(いわゆる企業内組合)は、当該企業の物的施設(以下「企業施設」という。)内をその活動の主要な場とせざるを得ないのが実情であり、その活動につき企業施設を利用する必要性の大きいことは否定することができない。しかし、労働組合が当然に使用者の所有し管理する企業施設を利用する権利を保障されているということはできず、労働組合による企業施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであって、労働組合にとって利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業施設を使用者の許諾なしに組合活動のために利用し得る権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業施設の利用を受忍しなければならない義務を負うと解すべき理由はない。そして、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該企業施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該企業施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動に当たらない(最高裁昭和四九年(オ)第一一八八号同五四年一〇月三〇日第三小法廷判決・民集三三巻六号六四七頁、最高裁昭和六三年(行ツ)第一五七号平成元年一二月一一日第二小法廷判決・民集四三巻一二号一七八六頁参照)。

もとより、使用者が労働組合による企業施設の利用を拒否する行為を通して労働組合の弱体化を図ろうとする場合に不当労働行為が成立し得ることはいうまでもないが、右に説示したとおり、使用者が組合集会等のための企業施設の利用を労働組合又はその組合員に許諾するかどうかは、原則として、使用者の自由な判断にゆだねられており、使用者がその利用を受忍しなければならない義務を負うものではないから、右の権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、使用者が利用を許諾しないからといって、直ちに団結権を侵害し、不当労働行為を構成するということはできない。

これを本件についてみると、組合結成通知を受けてから木村守衛事件まで約九箇月にわたり、上告人は、許可願の提出があれば業務に支障のない限り食堂の使用を許可していたというのであるが、そのことから直ちに上告人が組合に対し食堂の使用につき包括的に許諾をしていたものということはできず、その取扱いを変更することが許されなくなるものではない。一方、木村守衛事件が起きた直後に上告人から会場使用許可願を却下されて以来、組合は、上告人所定の会場使用許可願用紙を勝手に書き変えた使用届を提出するだけで、上告人の許可なく食堂を使用するようになり、こうした無許可使用を上告人が食堂に施錠するようになるまで五箇月近く続けていたのであって、これが上告人の施設管理権を無視するものであり、正当な組合活動に当たらないことはいうまでもない。上告人は、組合に対し、所定の会場使用許可願を提出すること、上部団体の役員以外の外部者の入場は総務部長の許可を得ること、排他的使用をしないことを条件に、支障のない限り、組合大会開催のため食堂の使用を許可することを提案しているのであって、このような提案は、施設管理者の立場からは合理的理由のあるものであり、許可する集会の範囲が限定的であるとしても、組合の拒否を見越して形式的な提案をしたにすぎないということはできない。また、上告人は組合に対し使用を拒む正当な理由がない限り食堂を使用させることとし、外部者の入場は制限すべきではないなどとする組合からの提案も、上告人の施設管理権を過少に評価し、あたかも組合に食堂の利用権限があることを前提とするかのような提案であって、組合による無許可使用の繰り返しの事実を併せ考えるならば、上告人の施設管理権を無視した要求であると上告人が受け止めたことは無理からぬところである。そうすると、上告人が、木村守衛事件を契機として、従前の取扱いを変更し、その後、食堂使用について施設管理権を前提とした合理的な準則を定立しようとして、上告人の施設管理権を無視する組合に対し使用を拒否し、使用条件について合意が成立しない結果、自己の見解を維持する組合に対し食堂を使用させない状態が続いたことも、やむを得ないものというべきである。

以上によれば、本件で問題となっている施設が食堂であって、組合がそれを使用することによる上告人の業務上の支障が一般的に大きいとはいえないこと、組合事務所の貸与を受けていないことから食堂の使用を認められないと企業内での組合活動が困難となること、上告人が労働委員会の勧告を拒否したことなどの事情を考慮してもなお、条件が折り合わないまま、上告人が組合又はその組合員に対し食堂の使用を許諾しない状態が続いていることをもって、上告人の権利の濫用であると認めるべき特段の事情があるとはいえず、組合の弱体化を図ろうとしたものであるとも断じ得ないから、上告人の食堂使用の拒否が不当労働行為に当たるということはできない。

そうすると、本件命令一を適法であるとした原審の判断には、労働組合法七条三号の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、その違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決のうち本件命令一に関する部分は破棄を免れない。そして、前記説示によれば、本件命令一を違法として取り消した第一審判決は正当であり、右部分に関する被上告人の控訴はこれを棄却すべきである。

第二同第四点について

一  原審の適法に確定した事実関係の概要は、前記第一の一1及び2の各事実のほか、次のとおりである。

1  上告人は、昭和五〇年四月二一日、豊四季事業所の従業員代表との間で労働基準法三六条に規定するいわゆる三六協定を締結し、松戸労働基準監督署長に届け出て、残業を実施していた。ところが、組合は、同年六月五日の団体交渉において右三六協定は無効であると主張し、同年九月一八日、上告人に対し、組合は従業員の過半数で組織されている組合であるから、組合との間で三六協定を締結するよう要求した。

2  松戸労働基準監督署は、組合から右三六協定の適法性についての異議が出されたことから、上告人に対し、同年一〇月二二日、右三六協定の締結当事者である従業員代表の選任方法に疑義があるとして是正勧告をし、さらに、同年一一月七日、右従業員代表が三六協定の締結当事者としての資格要件を欠くとして、残業を中止するよう指示したため、上告人は残業を中止した。

3  上告人は、同月四日、組合が三六協定の締結当事者としての適格があるか否かを知る必要があるとして、組合に対し組合員名簿の提出を求めたが、組合はこれを拒否した。上告人は、同月一一日は団体交渉において、同月一四日及び一八日には文書で、重ねて組合員名簿の提出を求めたが、組合はこれに応じなかった。

4  上告人は、同月一八日、本社、豊四季その他の各事業所において、所属課長を通じて、就業時間中に一斉に、従業員全員に対し、別紙のとおりの文面で組合加入の有無を調査する照会票(以下「本件照会票」という。)を配付し、記名の上即刻回答するよう求めた。

5  組合は、同日、上告人に対し、本件照会票の配付は組合に対する不当な介入であるとして、謝罪等を求めた。上告人と組合は、同月二一日、本件照会票配付の件について団体交渉を行ったが、組合が本件照会票の配付は組合に対する支配介入であると主張したのに対し、上告人は、三六協定を締結する以上は、組合員が従業員の過半数を超えているかどうかを知る必要があり、再三にわたり組合員名簿の提出を求めたにもかかわらず提出されなかったので、調査する以外に方法がなかったと主張し、双方の主張が対立したままであった。

6  上告人が本件照会票に対する回答書を集計したところ、豊四季事業所では従業員の過半数の者が非組合員と回答していた。そこで、上告人は、同年一二月四日、豊四季事業所につき非組合員である金子ほか五名の従業員代表と三六協定を締結して松戸労働基準監督署長に届け出、同月九日同署から右三六協定が適法である旨の連絡を受けた。また、土浦事業所においても同月四日までに従業員代表との間で三六協定を締結した。

7  初審命令及び本件命令は、いずれも、本件照会票を配付してした組合加入状況の調査は不当労働行為に当たるとして、組合の組合員に対して組合加入の有無を照会するなどして組合の運営に介入してはならないと命じ、かつ、右調査に関するいわゆるポストノーティスを命じた(以下、本件命令中これらに関する部分を、再審査申立てを棄却した点を含め、「本件命令二」という。)。

二  原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断し、第一審判決中本件命令二を取り消した部分を取り消して、本件命令二の取消しを求める上告人の請求を棄却した。

上告人は、早急に新たな三六協定を締結する必要に迫られていたため、組合が三六協定の締結当事者としての適格性を有しているか否かを確かめようとして、組合に組合員名簿の提出を求めたが、これを拒否されたため、本件照会票を配付して組合加入状況を調査したものであるが、右適格性の有無、すなわち組合が従業員の過半数の組合員によって組織されているか否かは、組合加入の有無について無記名秘密投票の形式によって調査すれば判明することであって、あえて、各個の従業員について組合加入の有無を調査しなければ判明し得ないものではない。上告人が右の無記名秘密投票の形式を採ることなく記名式の本件照会票を交付したことは、組合員の氏名を知ろうとした行為であり、そのような行為は組合員に動揺を与え、組合の弱体化を図るものであって、支配介入に当たる。

三  しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

労働組合には、その組合員の範囲を使用者に知らせる義務あるいは組合員名簿を使用者に提出する義務が一般的にあるわけではない。他方、使用者がその雇用する労働者のうち誰が組合員であるかを知ろうとすることは、それ自体として禁止されているものではなく、協約の締結、賃金交渉等の前提として個々の労働者の組合加入の有無を把握する必要を生ずることも少なくない。もとより、本来使用者の自由に属する行為であっても、労働者の団結権等との関係で一定の制約を被ることは免れないが、右に述べたところからすれば、使用者が、組合加入が判明することによって具体的な不利益が生ずることをうかがわせるような状況の下で、組合員に動揺を与えることを目的として組合加入についての調査をしたと認められるような場合であれば格別、一般的に、使用者において個々の労働者が組合員であるかどうかを知ろうとしたというだけで直ちに支配介入に当たるものではないというべきである。

前記事実関係によれば、本件紛争当時、労働基準監督署が、組合からの異議に基づき、現行の三六協定の適法性について疑義があるとして、上告人に対し時間外労働の中止を指示したため、上告人は、残業を中止せざるを得ない事態に立ち至っており、早急に新たな三六協定を適法に締結する必要に迫られていた。他方、組合は、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合であるとして、上告人に対し組合との間での三六協定の締結を要求していながら、その要件を確認するため再三にわたり組合員名簿の提出を求められたのに対しては、これを拒否し続けていたのである。上告人は、このように組合が協力しない状況の下で、組合の組織率を把握する必要があったのであり、上告人が、無記名での回答によっては正確性を必ずしも担保できないとして、正確を期するために記名式の用紙による照会をしたとしても、無理からぬところであり、これを不当視することは相当でない。使用者が組合員の氏名を知ろうとしたというだけで直ちに支配介入に当たるものでないことは前記のとおりであり、右のような状況の下においては、本件照会票の配付及び回答の指示が、秘密投票の方法によるものでなかったことのみをもって、組合員に動揺を与え、組合の弱体化を図るために組合員の氏名を知ろうとした行為であるということはできない。したがって、本件照会票の配付及び回答の指示は、不当労働行為には当たらないというべきである。

そうすると、本件照会票を配付してした組合加入状況の調査を不当労働行為に当たるとし、本件命令二を適法であるとした原審の判断には、労働組合法七条三号の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、その違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決のうち本件命令二に関する部分は破棄を免れない。そして、前記説示によれば、本件命令二を違法として取り消した第一審判決は正当であり、右部分に関する被上告人の控訴はこれを棄却すべきである。

第三その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九四条、八九条、九二条に従い、上告理由第三点及び第四点について裁判官河合伸一の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

上告代理人中野誠の上告理由第三点

及び第四点についての裁判官河合伸一の反対意見は、次のとおりである。

多数意見は、上告人が組合による食堂の使用を拒否していること及び本件照会票を配付して組合加入状況を調査したことがいずれも不当労働行為に当たらず、本件命令一及び二は取り消されるべきものであるというのであるが、私はこれに賛成することができない。その理由は、以下のとおりである。

第一右上告理由第三点について

一  企業施設の利用関係は使用者の有する施設管理権に服するものであり、労働組合が当然に企業施設を利用する権利を保障されているものでないことは、多数意見の説くとおりである。しかし同時に、憲法二八条は労働者の団結権及び団体行動権を保障しており、労働組合法も労使対等の理念に基づく団体交渉を助成し、労働者の団結と団体行動を擁護することをその目的として宣言しているのであるから、使用者の施設管理権の行使がこれらの法的要請に反するものであってはならないことも、多言を要しないところである。そして、現実には、使用者が施設管理権の行使としてする行為と労働組合が組合活動としてする行為が衝突し、正常な労使関係を実現するため、その間の調整を図る必要のある場面を生ずることは、避けることができない。

多数意見は、その引用する判例とともに、右調整の手法として、権利濫用の法理を用いるものである。そのこと自体については、私も本件において特に異を唱えるものではない。しかし、その場合、右に説示したところからすれば、前示の法的要請が、施設管理権の濫用の有無を判断するについての要素として作用することを認めなければならない。そして、一般に、具体的な権利行使が濫用に当たるかどうかについては、当事者間の利益較量等の客観的事情と権利行使者の意図等の主観的事情の両面を考慮してこれを判断すべきことは、ほぼ異論のないところである。したがって、本件のように施設管理権の行使としてされた使用者の行為をその濫用と評価すべきか否かは、主として、その行為によって使用者が確保しようとした利益に比較して労働者の団結権等に及ぼす支障の程度が過大であったか否か、使用者のその行為が労働者の団結権等を侵害する意図に基づくものであったか否かの両面から、これを判断すべきことになる。そして、使用者の行為が労使間の一連の対立ないし紛争の経緯の中で行われた場合には、右の判断もまた、その経緯の全体を視野に置いてしなければならないのである。

二  原審が適法に確定した事実及び記録によれば、右の判断をするについて考慮すべき本件の事実関係として、多数意見の摘記するもののほか、次の事実がある。

1  上告人の昭和五〇年ころの従業員数は、子会社を含め約九七〇名であった。組合の加入者数は、同年七月の統一時限ストライキの当時には約六〇〇名程度に及んでいたが、本件に関する千労委昭和五〇年(不)第三号不当労働行為救済申立事件(昭和五三年一月に命令発令)の結審時には、約五〇名になっていた。

2  本件食堂は、豊四季事業所内に所在し、四〇〇人分以上のテーブル、椅子等が配置され、従業員のサークル活動、勉強会等に利用されていた。昭和五一年七月までは、その出入口に施錠し得る扉がなく、事実上自由に出入りできる状態であった。

3  組合は、その公然化以来、各種の集会のため頻繁に食堂を使用していたが、木村守衛事件が起きるまで、上告人が組合の集会のための食堂使用そのものを拒否したことはなかった(当時、食堂利用に関して両者間に対立があったのは、組合がその備品を食堂内に設置したことについてであった。)。

4  木村守衛事件においては、同守衛は、組合の学習会が行われている食堂内の一角に近づいて参加者の氏名を記録したのであるが、本件命令及び初審命令によれば、それ以前には、食堂内での組合の集会についてその種の行為がされたことはなく、遠くから人数を確認するだけであったと認定されている。

三  以上によれば、本件について、次のとおり指摘することができる。

1  労働組合が、組織を維持し、その結成の目的に沿う諸活動をするためには、各種の集会を持つことが不可欠である。

本件の組合は、いわゆる企業内組合であって、しかも結成から日も浅かったから、企業内施設に集会の場所を求めるのは自然の成り行きであり、現に、昭和五一年二月の木村守衛事件を理由に上告人がこれを拒否し始めるまでの九箇月余、本件食堂を使用して頻繁に各種の集会を開いてきた。組合事務所を持たない組合にとって、以後食堂の使用が不可能になることは、組合の維持、運営を困難にするであろうことは、容易に推認できるところである。殊に、当時の組合は、組合事務所の貸与に関する問題のほか、就業時間中の組合活動の範囲に関する団体交渉拒否の問題、人事異動に関する団体交渉拒否の問題等、多くの問題を抱えて上告人と対立し(右二件の団体交渉拒否が不当労働行為に当たるものであったことは、多数意見も、その第三において認めるところである。)、同年一〇月には千葉地労委に本件救済申立てをすることになる状況にあったから、これらに関する組合の諸活動のためにも、大小各種の集会を催す必要があったのであって、これが不可能又は困難になることは、前示の労使対等の団体交渉の助成という労働組合法の要請に反して組合の団体交渉能力を著しく減殺し、ひいては組合員の団結権等に重大な障害を及ぼすものであったと考えられる。これに対し、食堂の前記のとおりの状況からして、これを組合の集会に使用させることにより、上告人の業務や他の従業員による使用に具体的な支障が生ずることはほとんど考えられない。

そうすると、上告人が組合の集会のための食堂使用を全面的に拒否した行為は、それによって守るべき利益に比較して、組合及び組合員の団結権等に与える障害が著しく過大であったことが明らかである。

2  上告人が組合に対し食堂の使用を拒否する理由として主張するのは、木村守衛事件における組合側の行動あるいはその後の組合の主張や行動が上告人の施設管理権を無視するものであって容認できないというところにある。

しかしながら、まず、右事件において組合側が暴言、脅迫等の行為をした事実は認められていない。かえって、当時の上告人と組合との間の対立関係を背景に木村守衛の前記行動を見れば、組合がこれを組合活動に対する介入と受け取ったのも無理からぬところである。その後の組合の食堂使用の態様には、多数意見のいうとおり、正当な組合活動とはいえないところもあるが、それとても、当時の組合として食堂を使用せざるを得ない緊急の状況があったことと、右事件以後の会社の対応が硬直的であったことを考えると、それを理由に、上告人が従来の取扱いを一方的に変更し、組合に対して自己の定めた食堂使用に関する準則を押しつけようとすることを正当化するものということはできない。

また、上告人が昭和五一年三月一八日に組合にした申入れは、一定の条件の下に組合大会開催のための食堂使用を許可するというものにすぎない。また組合事務所を持たず、しかも頻繁に各種の会合を開くことが不可欠であった当時の組合としては、そのままでは右申入れに同意することができなかったのは当然である。しかも、右申入れとこれに対する組合の反対提案との間には、集会目的の点を除いては、実質的にさしたる懸隔はなく、双方で誠実に交渉することによってその間の調整をすることも可能であった。しかるに、上告人は、自己の申入れの条件に固執し、千葉地労委の勧告にもかかわらず、その内容の変更に一切応じようとしなかったのである。

本件事実関係の経緯に照らせば、上告人は、このような態度を貫くことによって、組合の活動に深刻な支障が生じ、ひいては組合員の団結権等が侵害されることを認識していたことは明らかであって、むしろ、これを侵害する意図をも有していたとみざるを得ない。

四  以上を総合して判断すると、上告人が組合に対して食堂の使用を一切不許可とした行為は施設管理権の濫用と認めるべきであり、したがって、これを不当労働行為に当たるとした原審の判断は、結論において正当として是認することができ、原判決に所論の違法はなく、この点に関する論旨は理由がない。

第二同上告理由第四点について

原審の確定した事実関係によれば、本件照会票配付による組合加入状況調査が行われた当時、上告人は、組合の種々の要求事項についての団体交渉において対決的姿勢を示しており、組合に対し組合員名簿の提出を執ように求めていた。他方、組合は、当時、結成後約一一箇月、組合結成通知後約六箇月の時期にあり、上告人の要求にもかかわらず組合員名簿の提出を拒否していたというのである。右の事情からすれば、組合は、当時、組織固めの時期にあるため、組合員の氏名を明らかにすることにより、上告人から個別の脱退工作や不利益取扱等をされることを恐れて、組合員名簿の提出を拒否し、幹部組合員や交渉担当者以外の組合員の氏名を明らかにしないという方針の下に上告人と対じしていたことがうかがわれる。

当時、上告人に、三六協定締結の前提として、組合の組織率を把握する必要があったことは認められるが、そのためには、無記名方式での回答を求めるなど、組合に対する支配介入の疑いを招かない調査方法があったのである。しかるに、上告人は、そのような方法を採らず、また、調査方法について組合と協議する姿勢も示さずに、組合に対して組合員名簿の提出を要求し続け(ちなみに、労働組合が使用者と三六協定を締結するには、組合員の氏名まで明らかにする必要はない。)、これを拒否されたことを理由に、本件照会票による調査を行った。そして、この調査は、抜き打ちに、就業時間中、各就業場所において、各組合員の所属課長を通じて本件照会票を配付し、記名の上即刻回答するよう求めるものであった。しかも、本件照会票の文面には、あたかも労働基準監督署の指導によって行う調査であるかのような表現が含まれていた。

所論は、上告人が右調査をするに際し、これによって組合員に対し不当な動揺を与えないよう十分に配慮を尽くしたと主張するが、前記の状況の下で採られた右の方法には、そのような配慮があったとは到底認められず、かえって、組合員に威圧を加えて動揺させ、組合を弱体化することを図るものであったとみるのが相当である。

そうすると、上告人が本件照会票を配付してした組合加入状況の調査が不当労働行為に当たるとした原審の判断も、結論において正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。この点に関する論旨も理由がない。

以上によれば、論旨はすべて採用することができず、原判決は相当であるから、本件上告は棄却すべきものである。

(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治)

別紙 照会票

組合員名簿の提出は組合に対し再三に亘り申入れているにも拘らず、組合から組合員名簿は提出する必要はないとして拒否されております。

会社と致しましては、過半数の労働者の代表者と締結すべき三六協定の締結にも支障を来たしております。

この事情について松戸労働基準監督署に説明したところ、会社においてすみやかに調査し三六協定を締結されるよう指導されましたので次の通り各位に照会致します。

よって次の該当欄に○印をつけて一一月一八日迄に必ず所属課長を通じ会社に御提出して下さい。

なお本照会票は公表しません。

切…り…取…り…線

取締役社長 倉石得一殿

回 答 書

私は

1.支部組合員であります。

2.支部組合員ではありません。

月 日

氏名      印

上告代理人中町誠の上告理由

第一点 原判決は、就業時間中の組合活動の範囲に関する団体交渉についての上告人の対応について労働組合法第七条二号の不当労働行為に該当すると判断するが、右判断は右法令の解釈とその適用を誤る違法があり、その違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

一、即ち、原判決は、昭和五〇年一一月一一日に本項について団体交渉が開催されたことは認定しながら、それを以っては「実質的な協議を行っていないものといわざるを得ず…誠意をもって団体交渉に応ずべき義務を尽くしたものということはできない。」(原判決の引用する第一審判決四八頁)旨判断する。

しかし、右同日には、被上告人委員会の本件命令(以下本件命令という。一〇頁~一一頁)も「組合は、就業時間中の組合活動を行ったときに賃金をカットされることはやむをえないが、就業時間中の組合活動を認めてほしいと主張した。これに会社は、就業時間中の組合活動については最少限とするということになっているのに現実には拡大されている、また、組合活動は本来就業時間外に行うべきものであり昭和五〇年八月八日付け文書に記載したとおり就業時間中の社外の組合活動は認めないが、電話の取次ぎ、面会等は認めると主張し、話合いは平行線のまま終わった。」と正当に認定する如く、極めて実質的な内容の応酬が労使間で行われたのである。

そこで示した会社の見解は、右本件命令認定の通り、組合活動は本来就業時間外に行われるものであることを基本におくものであり、被上告人補助参加人組合(以下組合という)の見解は、就業時間中の組合活動は、(賃金カットはやむを得ないとしても)本来認められるべきだとの点に尽きる。

一般に、労働者が労働契約によって負う職務専念義務によって、就業時間中の組合活動は違法とするのが貴庁が確立された判例理論であって(目黒電報電話局事件・最高三小昭和五二年一二月一三日判決・民集三一巻七号九七四頁、大成観光事件・最高三小昭和五七年四月一三日判決・民集三六巻四号六五九頁を経て、貴庁は済生会中央病院事件・最高二小平成元年一二月一一日判決・民集四三巻一二号一七八六頁において遂に「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。」旨一般論としても判示したことは周知の通りである。)これと同旨の会社の右見解はまさしく正論そのものであり、それ自体不当や不誠実との非難を受けるいわれはない(しかも、「必要最小限」の内容として、電話の取次ぎ、面会等は認めているのであるから、これは一定の譲歩である)。

右一一月一一日の団交での会社の見解自体が趣旨不明確であり、更に説明を要するというのであればともかく、その点については、十分組合側に伝わっていることは、例えば組合自身が昭和五〇年一二月一八日付の協定書中で就業時間中の組合活動について「会社が回答済みであることを組合は了解する」旨明示していること(この点は本件命令一一頁も認定するところ)で明らかである。

従って、本項要求について回答とその理由を明確に表示した会社に対し、更なる「誠実団交」を求める本件命令(及びこれを支持し、具体的な話し合いを尽くせとする原判決)の意図するところは、結局のところ本項についての会社側の何らかの譲歩しかありえない訳であるが、これは「団体交渉において組合側にいかなる回答を与え、どの程度譲歩するかは使用者の自由である」(ノースウエスト航空事件・最高二小昭和六二年七月一七日判決・民集四一巻五号一三五〇頁)大原則に違背することは明白である。

二、そもそも使用者が尽くすべき「誠実団交」の中味としては、日本育英会事件において、東京地裁が示した如く、「使用者が団体交渉において常に組合の要求を全面的または部分的に受入れて譲歩の姿勢を示さなければならないものでないことはいうまでもないことであり、使用者が自己の立場ないし見解を堅持し組合の要求を受入れることができないという場合に交渉義務を尽くしたといい得るためには、使用者の主張が特に不合理とは認められず、かつ組合の納得を得るべく、必要ならば資料をそえてその理由を説明することが必要であり、また、それをもって足るものというべきであって、組合がこれを納得したことは必ずしも必要ではない。」(東京地判昭和五三年六月三〇日労働判例三〇一号一九頁)と解するのが正当と言うべきである。

しかして、上告人は本項につき自己の見解を明確に示し、またその理由については職務専念義務の観点から説明を加え、しかも会社が回答を為したことについて組合自身が前記協定書の中で確認しており、更には「必要最小限」の中味について当初より一定の譲歩をも行って来ているのであるから、「誠実団交」の観点から、本件について不当労働行為を成立させるものは何物もない。

第二点 原判決は、人事異動に関する上告人の団体交渉の対応に不当労働行為を認めるが、右判断は、明らかな経験則・採証法則の違背、並びに審理不尽、理由不備の各違背があり、ひいては労働組合法七条二号の解釈適用を誤る違法がある。

一、原判決は、本項の組合側の要求は、人事に関する(協議又は同意)約款を求める趣旨であったと判断し(原判決の引用する第一審判決五五頁、以下「右判断」という)、この判断を前提として会社の不当労働行為を認めている。

しかし、この前提となる右判断自体が、本件命令及び他ならぬ組合自身の主張と全く相反する判断なのである。

即ち、本件命令は四八頁において、「八月二三日に「八月一日付け人事異動の件」として改めて団体交渉を申入れているのであるから、少なくともその時点においては、組合の八月一七日付け団体交渉の申入れは、八月一日付けの人事異動に関するもので、人事異動に関する約款の締結を求めるものでないことは明らかである」と原判決右判断と全く相反する判断をし、組合も第一審提出平成元年九月二〇日付組合準備書面五丁裏においてこの判断を基本的に支持しているのである。

団交申入を行った、他ならぬ組合自身の主張を無視しうるに足る証拠は何ら存せず、原判決の本判断が、明らかに経験則・採証法則の違背をおかし、ひいては、審理不尽、理由不備、法令の解釈適用の各違法が存することは明白である。

二、そして更に原判決が支持する本件命令の判断(同四九頁)は以下の点で全く誤っており、その取消は免れない。

第一に、会社が昭和五一年一一月一七日付団体交渉申入書(乙第二五三号証の二)を以って、団体交渉の議題として人事異動の件をわざわざ追加して、会社側から団体交渉を申し入れた事実を全く無視している点で不当である。

第二に、本命令四八頁は、「交渉事項が不明確であったとしても団体交渉においてその点を質し、明確にすれば足りることである。」とも述べているが、これは上告人会社が現に昭和五一年一一月二五日に行われた団体交渉の席上、組合側に右の点を質した事実(乙第二五四号証第四一回団体交渉議事録一~二頁参照)を完全に無視した暴論である。

組合は、上告人会社の右質問に対し、「個人の問題ではない、非組合員も含めた問題である」等という抽象論と会社が事前協議約款締結を拒否することへの非難に終結し、団交の席上でさえも右議題をついに具体的に明確化することができなかったのである。

本命令及び原判決は、こうした事実に全く目をそむけている。

第三に、同日の団体交渉では、「八月一日付人事異動」に関する団交議題には、前述の通り非組合員の問題も当然含まれることが組合側から明示されている。(組合側の同日の説明によるとそれは「労働者には組合が、非組合員のためにもあるということである」という不可解な理屈のようである。)

しかし、一般に労働組合は、組合員の労働条件その他の待遇についてのみ団体交渉権を有し、非組合員のそれらについては団体交渉権を有しないことはいうまでもない。

従って、右議題は、明らかに組合が団体交渉権を有しないものを含んでおり(いわゆる任意的団交事項)、当該団交申入を拒否しても労組法第七条二号所定の不当労働行為成立に由ないと言わねばならず、本件命令及びこれを支持した原判決はこの点を全く看過しており、その点からも本項の原判決の結論は到底破棄を免れない。

(右議題のうち、当該組合員を明示して組合員の異動の問題に団体交渉事項を限定すれば、あるいは義務的団交事項たりえようが、組合側は、「組合員が誰かは関係ない、あくまで非組合員を含めた問題で、個人の問題ではない」との見解に終始してその明示を果たさなかったのである。前掲団交議事録一、二枚目参照。)

第三点 原判決は、組合集会等のための食堂使用に関する上告人の対応について上告人の不当労働行為の成立を認定するが(原判決理由第二 四)、右判断は労働組合法第七条三号、民法第一条三項の解釈とその適用を誤り、更にその点について貴庁の判例に違背する違法があり、その違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

一、原判決は、上告人が守衛妨害事件を契機に、食堂使用の取扱いを変更したことの正当性を認めつつ、それ以後上告人が食堂使用を拒んだことは、不当労働行為を成立させるという。

〈1〉 原判決は、その論拠の一つとして、上告人が食堂の利用を「一切拒否し続けた」点をとりあげる。

しかし、上告人が食堂利用を「一切拒否し続けた」というのは、以下の事実を看過した上告人に対するあまりに一面的な評価である。

即ち、上告人は、守衛問題発生以後も、原判決が認定する通り(原判決の引用する第一審判決七四頁~七五頁)食堂利用についての十分考慮に値する提案を行い(この提案内容は、貴庁池上通信機事件・最高三小昭和六三年七月一九日判決・労働判例五二七号五頁の会社側の提案に極めて類似するものである)、同施設利用に関する合意形成の為の努力を尽くして来たのである(本件第一審判決八〇頁は正当にもこれを認める)。

しかるに、一方組合は、組合活動の為に当然に会社施設も利用しうるとの見解を前提に、右会社提案を一顧だにせず一蹴し、同年七月まで多数回にわたり(第一審金子政信証言第四六項によれば週に少なくとも一、二回のペースで)上告人に無断で食堂を利用し続けたのである。

このように組合が無断使用を重ね、上告人の施設管理権に基づく規律や制約に服さない場合は、「企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができる」(国鉄札幌事件・最高三小昭和五四年一〇月三〇日判決・民集三三巻六号六四七頁、同旨富士重工業事件・最高三小昭和五二年一二月一三日判決・民集三一巻七号一〇三七頁)のであって、上告人が食堂利用の拒否で対応したことは右判示に照らして当然である。

原判決は、組合の前記無断使用行為を「第一審原告の施設管理権に対する侵害」であり「正当な行為ということはできない」としながら、上告人の食堂利用拒否が正当とされることにはならず、ひいては、施設管理権の濫用に該当すると言うが、この判断は、貴庁の前記引用の各判例及び同旨の判例(新宿郵便局事件・最高三小昭和五八年一二月二〇日判決・判時一一〇二号一四〇頁、日本チバガイギー事件・最高一小平成元年一月一九日判決・労働判例五三三号一二頁、済生会中央病院事件・最高二小平成元年一二月一一日判決・民集四三巻一二号一七八六頁)に違背し、ひいては、労働組合法七条三号、民法第一条三項の解釈と適用を誤る違法があることは多言を要さない。

二、原判決は上告人の権利の濫用の有無の判断において、組合の上告人所有の物的施設内を利用することの必要性を斟酌、強調しているが(原判決六丁裏)、これは、貴庁が「権利の濫用であると認められるような特段の事情があるかどうかの判断に際し、病院の管理する物的施設を利用して職場集会の必要性を強調することができないことはさきに説示したところから明らかである」(前掲済生会中央病院判決判文)と説示するところに明白に抵触し、この点に照らしても原判決の判断の誤りは明らかである。

第四点 原判決は、上告人が昭和五〇年一一月一八日に三六協定の適法な締結者を確定する為行った組合加入状況の照会について、不当労働行為の成立を認めるが、右判断は、労働組合法第七条三号の解釈と適用を誤る違法及びその点について理由不備の違法があり、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

一、原判決は本項の判断について無記名秘密投票によって行うべきことを唯一の根拠としている。

しかし、憲法一五条によって秘密が要請されている公務員の選挙とは異なり、本件は三六協定締結に関するものである。

三六協定の過半数代表者の決定については秘密投票の規制はもとよりなく、解釈上も一定の民主的な手続であることが要請されるにとどまり、行政通達(昭和六三年一月一日基発第一号)によれば挙手でもよいとされているのである。

また、組合員の範囲について労働組合法がその秘密を保持することを保障する一般的な規定はなく、逆に一定の場面では開示が要請されている(典型的なのは、チェックオフの要求であるが、その他の場合については、東大労研編「注釈労働組合法上巻」四二二頁に例示がある)のであって、本件も組合が三六協定の締結を要求する以上、その開示が要請される場面であったということができる。

従って、単に無記名秘密投票でないことを以って、直ちに上告人を非難し、不当労働行為をいう原判決はあまりに論理が飛躍している。

二、本件の事実認定(原判決が引用する第一審判決八二頁~八三頁)にも示されたように、ことは三六協定の締結当事者の要件を満たすか否かという問題であり、しかも松戸労働基準監督署から、正確な要件を満たす協定を締結するよう勧告を受けていたのであるから、上告人が、正確を期すため、氏名欄のある用紙をもって回答を求めたとても、その行為がとがめられるいわれはない。しかも、用いた照会票にも、「本照会票は公表しない」旨明記されており(本件命令三二頁参照)、照会に際しては、その照会票の提出自体も従業員の自主的判断に委ねており、更に氏名欄の記入の有無についても具体的な強制は行っておらず(現に無記名による提出例も相当数存した)、右照会が不当な動揺を与えないよう十分に配慮を尽くしているのであり、これらを以って支配介入をいう原判決は、到底破棄を免れない。

第五点 原判決は、昭和五〇年年末一時金に関する念書配付に至る上告人の対応について不当労働行為の成立を認める判断を下しているが、右判断は、審理不尽、理由不備の違法をおかし、ひいては労働組合法七条三号の解釈とその適用をあやまり、以上の違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

原判決は、本項について第一審判決の判断をそのまま引用している。

引用された第一審判決では、上告人が右の時点で三六協定締結を年末一時金支給の条件としたことに「合理的理由」を見い出すことができないことが不当労働行為成立の根拠とされている。

しかし、上告人は、第二審たる原審において、次の通り「合理的理由」の主張を行った。

即ち、上告人が、昭和五〇年年末の一時金の提案に際して、「三六協定の締結を求めた」というのは正しくなく、正確には組合の残業への協力とその為の労働協約の締結を求めた点にある。

当時、上告人会社は危機的ともいえる業績不振の時期を脱し、徐々に受注が回復しつつあり、客先の納期を守る為には一定の残業は不可避な状況であった。

しかるに、非組合員は残業について協力的であったが、組合員は当時組合の方針に従って、一切の残業を拒否する事態が続いており、組合員の所属する部署では、生産計画等に重大な支障が生じかねない状況であった。

以上の事実を踏まえ、上告人会社は、本来当然に請求権がなく、恩恵的性格、功績報酬的性格、利益分配的性格を帯有する一時金(賞与)の支給条件として、組合に残業への協力(即ち残業協定締結)を求めたのであって、その行動は企業として当然のことであり、不当労働行為のそしりを受けるいわれは何ら存しないのである。

そして、上告人は原審において、右主張に添う立証を行い(甲第七号証福島陳述書)右に反する証拠を被上告人や組合は一切提出していない。

しかるに、原判決は、上告人の控訴審における右「合理的理由」の主張の是非について全く判断を脱落させており、この点において、原判決が審理不尽、理由不備の違法をおかし、ひいては労働組合法七条三号の解釈とその適用をあやまったことは明らかである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例